新生讃美歌332番 「川のように」
~神の平和を語ります~
幼い子どもの頃、小川の淵に座って、静かに曲がりくねっていく水の流れを眺めていたことを思い出します。丸い石や木の小枝の間を滑るように流れてゆく様は、静寂と穏やかさそのものでした。その川はどこへ行くのでしょうか? その川が長い旅をしてミシシッピー河に流れ込み、メキシコ湾に出て、大洋に至り、世界中を旅することをうらやましく思いました。今回選んだ賛美歌の微妙な感じとイメージを理解するために、この賛美歌が生まれた場所に心の中で旅をしてみましょう。
アメリカ合衆国の南部でのこと、一人の黒人が綿畑での厳しい仕事をしたあとの夕暮れのシーンです。暑さと汗で疲れ果てて、彼は小さな川のそばに座って歌い始めました。
“I have peace, like a river in my soul” 「川のように、平和な心、主より」と。
この賛美歌を選び、歌詞を翻訳していた時のことですが、新生讃美歌委員会のメンバーは、急速に、激しく流れて、行く手にあるものを飲み尽くしていく川を想像したようです。これはアメリカン・スピリチュアルなので、委員はまずミシシッピー川を思い浮かべ、速く、強く、逞(たくま)しい歌だと考えました。しかし実際にミシシッピー川を見た人は少なかったので、その静かで穏やかな流れを想像することができなかったようです。川にはさまざまな性格があります。ミシシッピー川が世界で長い川の一つで、北から南へ流れ、大洋に出るまでに他の多くの川や小川や入江に流れ込みますから、時によって、また所によって落ち着いた静かな流れとなったり、荒々しく速く強い激流となったり、時に洪水で家屋や耕地を破壊することもあるのです。
ちょうど嵐のあとの静けさに感じる強さと力のように平和はそのように訪れます。平和は人により、国により、その経験しているものにより違った意味を持ちます。川が荒れ狂った旅の果てに静かに安定するように、人は、苦闘と混乱と激動の後に、イエス・キリストとの交わりによってほんとうに平和を体験し、理解することができます。
この賛美歌はトラディショナル・スピリチュアルとして知られています。それが黒人霊歌なのか、白人霊歌なのか、作詞者も作曲者も不明ですので、わかりませんが、それが黒人によって作られたにせよ、白人によって作られたにせよ、その作られた状況は、想像できます。この詩人が経験したと同じように、私たちも平和を、静かな、優しい川の流れに例えたいものです。
英語の「ピースフル」という言葉は、落ち着きと静寂と穏やかさを連想させます。騒音と混乱のうちに過ごした一日の後では、私たちは神の愛と平安を感じる静かな穏やかさを求めます。
332番のオリジナルの歌詞は、「川」という言葉を1節でのみ用いています。新生讃美歌には、全部の歌詞と翻訳を含めることができなかったのですが、オリジナルの歌詞は次のような比喩を用いています。
1節 私の魂には川のような平和がある、2節 泉のような喜び、3節 山のような信仰、4節 海のような愛、5節 私の魂には救い主キリストがおられる。それはイエス・キリストを救い主とする深い信仰を表わし、平和と愛と喜びが魂にあるようにと求める祈りの形で書かれ、歌いやすいシンプルな曲と組み合わされています。
歌詞は、原詩・原曲がつくられたニュアンスに沿ってゆっくり、静かに、和やかに歌うように訳されています。しかし、川には氾濫するときがあるように、時に私たちの心は泉のような喜びと、山のような信仰と、海のような愛であふれ、声高らかに神を賛美したくなります。混乱と不安にあふれる世界で、ほんとうの平和がどのようなものか理解できず、平和ってどのようなものかしらと考える事があります。しかし、豪雨と苦難の中にあっても私たちには神のみことばの約束があります。私たちが神のみ手に避け所を求める時、心にまた生活に神の平和を体験することができます。
「あらゆる人知を超える神の平和が、あなたがたの心と考えとをキリスト・イエスによって守るでしょう。」フィリピ4:7
「神は豪雨を逃れる避け所」イザヤ25:4
この賛美歌を歌うとき皆が一致して心と声を合わせて賛美すれば、歌詞のほんとうの意味、「神の平和」をあらわすことになります。
「キリストはわたしたちの平和であります。二つのものを一つにし…神と和解させてくださいます。」エフェソ2:14~16
平和の賛美歌
- 『新生讃美歌』324番~334番 この賛美歌は目次の「平和」の項目に記されています。
- 『新生讃美歌』 515番 「静けき河の岸辺に」”When peace like a river” この賛美歌は332番と同じく平和を川に例えています。
- 『新生讃美歌』 169番、160番、173番 これらのクリスマス賛美歌は、イエス・キリストは平和を与えるためにこの世にこられたことを語ります。その誕生の時、天使が歌いました。「いと高きところには栄光、神にあれ、地に平和、み心にかなう人にあれ。」ルカ2:14
- 『新生讃美歌』330番 この賛美歌はイエス・キリストをとおして私たちに与えられた神の永続的な平和の不思議と喜びをよく表しています。
詩編作詩者と共に「平和を尋ね求め、追い求めよ。」(詩編34:15)と賛美しましょう。私たちも神の平和を尋ね求め、追い求め、祈り求め続けて、地に平和を願う証と祈りの賛美を歌いましょう。賛美歌は神の平和を語ります。
出典:NewSongニュースレター第3号(2004年6月)「賛美歌は語ります」(大谷レニー)