イエスさまの信仰へたちかえって、平和を伝える

新生賛美歌385番「すべての人に宣べ伝えよ」

 

20世紀中期、日本の賛美歌を広めるために活躍し、163番「きよしこの夜」の訳詞や205番「まぶねの中に」の作詞でも知られる由木康師が作詞し、1936年に個人賛美歌集『竪琴』にて発表したのがこの「すべての人に宣べ伝えよ」です。日本基督教団讃美歌委員会が編集した『讃美歌略解』や『讃美歌21略解』には「福音(良き知らせ)を広く宣べ伝えるべきことを単純平明に歌ったもの」と紹介されていますが、本当にそれだけでしょうか。

この賛美歌が作詞された1936年当時の日本を思い起こしてみましょう。1929年の世界恐慌後の不景気のため軍部の力が台頭し、1931年に柳条湖事件(日本軍によるでっちあげの鉄道爆破事件)をきっかけに満州事変が起こり、1932年に5.15事件で犬養毅首相が殺害され、1933年に日本は国際連盟から脱退、翌1937年には日中戦争が始まっていきます。そんな戦争へと一直線に突き進む時期である1936年にこの賛美歌は発表されたのです。

調べてみますと、当時はまだ軍部によって、天皇と聖書の神を同一視させる賛美歌作りへの圧力は強くないようですが、率直に歌うことに危機感を感じ始めていた時期ではあっただろうと思われるのです。そういった時代背景を思って歌詞を読み返すと、この賛美歌には単純な福音宣教ではなく、同時代人への強い呼びかけがあると思うのです。

2番「まことの幸を求めつつも、空しきものにさそわれゆく、世の同胞(はらから)」とは、力による統治に酔う国民へ警告であり、3番「十字架のうえに死にたまえる御子こそ永久の救いなれや」は「自分たちが仰ぎ従うのは、十字架で私たちを救ってくださった救い主イエス・キリストだ」という叫びが見えるのです。そこには「まぶねの中に」の中で「人となって私たち人間に神さまを示してくださったイエスさまへの信仰に立ち返れ=この人を見よ!」と連呼した由木師の祈りが読み取れるのです。

今年も各教会・伝道師にて平和を覚える礼拝がもたれるでしょう。その中でぜひこの賛美歌も歌っていただきたいのです。そして、集った方々と賛美する時に、ぜひ今の私たちの状況と重ね合わせていただきたいのです。平和憲法を骨抜きにし、福島や沖縄をはじめとして犠牲を正当化し、人の尊厳を踏みにじる今の日本において、私たちは何を主とし、どう生きるのでしょう。私は賛美しながら、「もう二度と空しきものにさそわれずに、キリストの平和を作り出す者となろう」という思いを確認し合いたいと思うのです。

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