「平和をあたえませ」と節ごとに歌う 新生讃美歌329「全能の神はいかずちも」

新生讃美歌329 全能の神はいかずちも

この賛美歌では「平和をあたえませ」という祈りの言葉が毎節の最後に歌われます。世界の各地で争いがあり心を痛める日々の中、思いと声を合わせ、共に賛美したい賛美歌のひとつです。

1833年に作られたこの曲は、ロシア皇帝ニコライ2世は、ロシアには他の国の国歌に匹敵する真の国民的起源の国歌がないことを憂えて、サンクトペテルブルクの皇室礼拝堂の音楽監督であり、ヴァイオリニストだったアレクシス・フョードロヴィッチ・リボフ(1798-1870)にその作曲を依頼したことによります。リボフが作った曲に、宮廷詩人のジュコフスキーにより『 Бо́же, Царя́ храни́!』(神よ、皇帝を守り給え!)という歌詞がつけられ1833年11月23日に初演されました。

世界平和への雄弁な嘆願の詞は、英国が世界中でいくつかの紛争に巻き込まれた世紀の半ば、1842年にビクトリア朝時代のイギリス文学界で作家兼ジャーナリストとして有名でクエーカー教徒であったヘンリー・フォザーギル・チョーリー(1808-1872)によって書かれ、「戦争の時」という見出しの下で出版されました。当時、英国の工業化による生産力の増大により、圧倒的な経済力と軍事力で世界の覇権を握っていましたが、争いも多く起きていたのです。

そしてその約30年後、普仏戦争の前夜にジョン・エラートンもチョーリーの詞を模倣しながら、賛美歌の詞を書きました。エラートン(1826-1893)は、40年間教区で奉仕した英国国教会の聖職者でしたが、賛美歌作家(約50の賛美歌を書いた)、賛美歌学者、賛美歌編集者でもありました。当時イギリス人は、ドイツとフランスの間の紛争に引き込まれることを恐れていましたので、エラートンは彼らに神の主権の力を思い起させ、安心させるために書いたともいわれています。

その後、この2人の作者による2つの賛美歌の合計8節の詞が、賛美歌編集者によって4節にまとめられました。神が『全能であり、恵み深き愛の方であり、義なる神』であることを高らかに宣言し、広く歌われるようになっています。(3、4節の歌詞はエラートン作という説もあります。)


2022年2月にウクライナへ侵攻し、今なお戦いを続けているロシアでうまれた曲で、1917年のロシア革命以前まではロシア帝国の国歌として歌われていた曲でしたが、今では平和を祈る賛美の詞がつけられていることは、神の計り知れないご計画をみる思いです。

原歌詞1~3節までの4行目を見ますと英国国教会の聖公会祈祷書からの言葉を引用して、「主よ、私たちの時代に平和を与えてください」と繰り返し嘆願します。しかし、原歌詞4節では、「主よ、『あなたはあなたの時』に平和を与えるでしょう」と変わっています。それらの言葉には、神への信仰と神の主権が強調されています。

争い多きこの時代の中を生かされている私たちは、「平和を与えませ」と、全能でありながらも憐み深く義なる愛の神に祈りつつ、又すべてに「神の時」があることを信じ歩んでいきましょう。

わたしはまた、大群衆の声のようなもの、多くの水のとどろきや、激しい雷のようなものが、  こう言うのを聞いた。「ハレルヤ、全能者であり、わたしたちの神である主が王となられた。」 黙示録19:6

【参考資料】

言葉による賛美歌 その歴史と意味
https://wordwisehymns.com/2015/11/09/god-the-omnipotent/

Wordwise Hymns ヒムスタディーズブログ
https://hymnstudiesblog.wordpress.com/2008/06/04/quotgod-the-omnipotentquot/

The church of Scotland
https://music.churchofscotland.org.uk/hymn/266-god-the-omnipotent-king-who-ordainest

小松澤恵 常盤台バプテスト教会 「礼拝さいこう」ニュースレター No.26 (2022)

329 全能の神はいかずちも

 

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